ドイツのHCI系トップ研究室に行ってインターンしてきた話

-Thu, Dec 7, 2017-

ざっくりいうと:

はじめての海外留学

この度、ドイツ・ポツダムのHasso Plattner InstituteにあるHCIラボにお邪魔して、実質1ヶ月とちょいでCHIのフルペーパーをSubmitした研究インターンについて書きたいと思います。 どのみちこの体験を何かしら文章にして残したいなとは思っていたのですが、おそらくすんごい人たちがたくさん集まるであろうAdvent Calendarへ誘っていただいたkeihiguさんには、知り合って間もないにも関わらずお気遣いいただき感謝致します。稚拙な記事かと思いますが、これから研究インターンに行こうと思っている方に少しでも参考になれば幸いです。思いついたことを思いついた順に書いていくので、支離滅裂な記事になるかもしれませんが、がんばるぞいなんでご容赦願います。

かるく自己紹介and何故行こうと思ったか

Jotaro といいます。出身は山口県で、高専の機械電気科から東大の機械情報へ進学して、現在 あの人の研究室 で学際情報学府のM1をやっています。

そもそもこの研究留学に行くことになったのはほんの一瞬の出来事がきっかけで、3月頃に@drinami先生に突如四川料理屋さんに呼び出されて、お酒飲んでいい感じになった勢いで「HPI行かない?」と言われたことでした(同じ席に keihiguさんもいましたね)。ちょうど卒論が終わったにも関わらず、自分の研究の方針やラボでの立ち位置や人間関係にかなり悩まされていた時期だったこと、高専時代にもドイツ人の教官のもとで2年間過ごしていたことからもともとドイツという国に興味が深かったこと、高々2-3週間しか海外に滞在したことのなかった自分にとっては貴重な経験になるだろうということが重なり、いいチャンスだと思ったのですぐに行こうと決意しました。大規模な研究室が多いイメージのアメリカではなく、あえてドイツへ行こうと思ったのもそういった理由があってこそです。

日程

夏のとても良い時期に行くことが出来ました。7月下旬から10月頭まで、ビザ無しでインターンができる滞在期間のギリギリまでいました。おかげで帰りの出国審査の際に「お前ドイツに住んでんの?」と言われ、電卓で日程をめちゃ計算されて焦った覚えがあります。事前にビザ無しでインターンが可能か、インターン先や大使館に事前に相談しておくことをおすすめします。

ドイツの夏は一瞬にして終わるため、7-8月は特にドイツ人は外で遊び、日光を浴びたりお祭り騒ぎをやったりしている印象です。街中がいい感じに賑わっていて、いい感じでした。

ドイツという国・ベルリンという場所について

上にも書きましたが、最初にドイツという国に興味が湧いたのは高専の頃でした。 世界史担当の教官の先生には、中世Lübeck地域に関する歴史を専門にしていたことから、不要になったドイツ語の本をよく譲っていただいたりしていました。 また卒業論文の教官がKleve出身のドイツ人理論物理学者で、高専の卒研の一年をドイツ語・英語で過ごすということもあったため、なにかしら縁のある国の一つでした。 HPIの研究はよく知っていましたが、まさかPotsdamにあるとは・・・という感じだったので、ますます行ってみたくなった、という感じです。

そんなこんなでかねてよりドイツという国そのものにも興味がありました。 中世・神聖ローマ帝国時代から現代までキリスト教と切っても切れない関係にあったり、数多くの内紛や周辺諸国との戦争で何度もズタボロになったり、また帝政・共和政・ファシズム・そして冷戦時代の東西分裂からの再統一、などというバリエーションに富んだ歴史を歩みつつも、「統一ヨーロッパ・統一ドイツ」をテーマに掲げて今もなお進み続ける姿には、割と魅力を感じていました。

Berlin wall Mauerpark (Park of Wall), Berlin

ベルリンの町自体も19世紀あたりのプロイセン王国時代以降、ドイツ国(Deutsches Reich)の首都として機能していた一方、ファシズムや冷戦などの抑圧の時代を乗り越えてきました。その過程で多くの国籍や背景を持った人たちがごった返し、特に再統一後の廃墟をアーティストが占拠するなど、多くの経過(この記事がよく書かれています)を辿った結果、現在よく知られている活気のある楽しい感じの街に発展していきました。自分で言うのも何ですが若いうちにこういう街を訪れる事ができて嬉しかったです。

さて前置きが長くなりましたが、そろそろ研究インターン体験談を・・・m(_ _)m

HPIとは

一応は大学の学部+研究科

HPI、もといHasso Plattner Instituteは、いわゆる指定管理者制度( Öffentlich-private Partnerschaft )に基づいて公設民営化された、ポツダム大学の情報システム工学科という ややこしい 立ち位置です。ヨーロッパ最大のソフトウェア企業であるSAPの共同創業者の一人:Hasso Plattner氏が立ち上げたもので、20年間で述べ2億ユーロを支出しています。サンキューハッソ。スタンフォード大学と共同でDesign Thinkingラボも有しており、静かな場所にある学校ですが色々と活発な研究が行われているそうです。

HPI Hauptgebaeude Hauptgebäude (Main Building), HPI, Potsdam

HCI研究室

HPIには情報系の研究室がいくつもありますが、そのうちの一つであるHCIラボは、HCI界隈では パト様 として知られるPatrick Baudisch 先生の研究室です。

毎年安定してCHI、UISTのBest Paperを取ったりしつつも、VRやハプティクス、メタマテリアルやファブリケーション技術など、固まった分野にとらわれず、数十年後の未来を見据えたあらゆるテーマに取り組んでいる研究室です。Ph.D Candidateの方が7人ぐらいいる、小さくても大きな研究室だなと言うイメージでした。

研究インターン、始まる

このラボの研究インターンは紹介を通して受けて申し込みましたが、さらに面接と教員からの推薦状が2通必要でした。

基本的にラボの公用語は英語ですが、修士や学部生とのやり取りや昼飯時などは頻繁にドイツ語が飛び交います。私は海外経験はありませんでしたが、面接から日々の生活まで長年の洋ゲーやネトゲ経験で積み上げた英語力で乗り切りました。 当然ながら日本のラボで議論するよりも激しかったです。白熱した研究の議論に耐えうる強靭な語学力が要求されました。

スケジュール感

Deadlineまで、一気に走り抜けていくような日々でした。研究の内容はPeer review中ということもあり詳しく書けませんが、日本で卒論やった時よりも「研究した感」がすごかったです。ビデオのとり方や図の書き方といった細かなテクニックから、論文執筆までの流れなど、短期間で多くを学ぶことが出来ました。

やった内容に関して、まだ詳しく書けないのが残念です。「結局何やったんや!」って怒る人もいるかもしれませんが、もちょい待ってていただければ嬉しいです。 ラボの生活メインでどんな感じだったか、どうやったらテンポよくやっていけたかをメインに書きます。

毎日の生活

ベルリンとポツダム(あのポツダム宣言の場所)までは電車で30-60分ほどで行き来することができるため、私はベルリンのKreuzberg(クロイツベルク)に住んでいました。 朝9:00に家を出て10:00頃にHPIにつき、12:30ぐらいになったら みんなで 学食にご飯にいき、遅くて18:00頃までには帰るという文化的で非常に規則正しい毎日でした。 このあたり、マジでドイツらしいです。あまりに遅く残っていると警備の人に「もう閉めるぞ?」と言われたりします。限られし時間の中でいかに自分の研究を進めるかが鍵となってきます。

また、15:00頃になると「今日ボルダリング行こうぜ?」とか「走りに行こうぜ」などのお誘いが飛ぶため、17:00頃にはラボをすっ飛んで遊びに行くなんてこともザラでした。 ただむしろこういう生活を続けていくと、 ラボでダラダラ過ごすなんてことがなくなり、かなりテンポよく研究をすすめられたと思います。 ラボの人と頻繁に遊びに行ったり、 ドイツ国技であるところのボドゲ をやったりすることで、スムーズに仲良くなれました。クッソ楽しかったです。

ラボMTGは毎週水曜日に1時間きっかりでやります。短いと思う人がいるかと思いますが、普段から先生や周りの学生と話しているのでこれと言って不足しているとは思いませんでした。みんなが発表している間は小さなカードに話を聞いている間のメモを取って、発表している人に最後に渡してあげます。全員が全員アウトプット/FBしてあげるという感じでした。メンバーの殆どがバリバリ実装できるマンだったので、研究の方針から細かい実装まで多方面からアドバイスが貰える有意義な時間でした。

プロジェクトが始まるとすぐにペーパープロトタイピングとフィジカルプロトタイピングのくり返しで・・・

keihigu「教員は共有リソース」

そうそう、暦本研10周年のオープンハウスでkeihiguさんが「暦本研の秘訣」みたいなテーマのパネルでこう言われていました。 はっきり言って至言です。すごい。 時間が限られている中で、ラボとブレインであるところの教授と、如何にたくさん議論して、如何に自分の実装をFBしてもらって、ブラッシュアップを回しまくるかが鍵だと思います。鉄と同じでぶっ叩いてもらわないと強固にならないので、思い切って見せまくるということが大事だと学びました。ラボによって、教員が学生とあまり時間を過ごさないという声をたまに聞きます。留学して、ラボにいる間は常に議論できる環境づくりができているといいな、という感じでした。

inami @drinamiの語る共有リソース

ラピッドプロトタイプとFBループに関しては、@ken0324 さんの図が思い出されました。この図を始めて見たときに「おにぎりを握るようにテンポよく繰り返す」って、結局どれくらいテンポよく繰り返せばいいんだ・・・ってなってましたが、今回取り組んだ内容だと1-3時間に1回とかのレベルでした。一日でかなり進捗を産んだ感があった印象です(ただ、deadlineまで相当時間がなかったのであえてこういう時間の使い方をしていた、というのもあると思います)。

nakagaki @ken0324 おにぎりの図

休日

休みの日はベルリンを中心に観光したり、ごろごろしたりして疲れたアタマを休ませたりしていました。 公園はいつも人で賑わっていたり、博物館や美術館は有名な展示が多いため、常に観光客でごった返しています(直行便がなくアクセスが悪いからか、日本人観光客がミュンヘンなどに比べてかなり少なかった印象です)。色んな所に行きましたが、記事が無限に長くなるのでちょっとだけ。

世界最大の動物園の一つであるベルリン動物園がめちゃお気に入りでした。上野でパンダの赤ちゃんを見ようとしたら5時間ぐらい待たされそうですが、ベルリンはすんなり入ってすんなり見れました。間近。めちゃかわいい。

panda Panda, Zoologischer Garten, Berlin. 笹をむしゃむしゃ食べてるところの後ろ姿。人混みがほぼない。

holidays Spree, Belrin. よる9時ぐらいまでこれくらいの明るさの時もあり、公園は賑わっている

追い込みからsubmitまで

9月に入ってからは実装したシステムを評価実験し、締め切りギリギリまで踏ん張る毎日が進みました。 当然インターン期間中では最もつらい時期でしたが、周りの学生がたくさんアドバイスをしてくれたり、撮影や実験を手伝ってくれたりしたので心折たれることなく、Submitにこぎつけることが出来ました。けしてひとりでやろうとせず、同じような志やコモンセンスをもつ仲間と協力しながら取り組むことでも、割りとテンポよく研究も進んだかな、という感じです。過去にトップカンファに何度も論文を執筆している人から直接アドバイスを貰えるのは貴重な経験でした。

最後までラボの皆さんに支えられ、ときには私から議論に参加することもありました。特に相談事があるときは近くにいるだけで「・・・なんだけど、どう思う?」と言われることがありました。各プロジェクトで向いている方向がバラバラにも関わらず、一体感のあるラボでとても過ごしやすかったです。

Submit後は夜遅くまで開いているバーで美味しいビールとご飯をいただき、静かにベルリンの夜を過ごしました。

holidays Schwarzes Cafe, Belrin.

所感

今回の留学は、海外経験・研究経験の乏しい自分に気合一発、という意味でも大変意義あるものでしたが、プロジェクトを進める上でどういう風に取り組んでいけばいいか、最終的に研究の形に落とし込む際にどう意識すればよいかという点でたくさん学ぶ点がありました。また日本のラボで上手くいかなかった自分に対して、ベルリンで毎日どういう過ごし方をしていたかを比べることで、今後の研究生活に何かしら有益なノウハウも得られるだろう、という考えもありました。

よって、研究ノートには普段の進捗の他にも、留学先で日本よりもどういう所が良いな・意外だ・もっとこうした方がいい・キツい、といったことを、思いついた時点で全て紙に文章にして起こすようにしていました 。今となってはかなりいいことだと思いましたし、こうして記事を書く際にも参考になりました。

なかなか研究が思うように進まずに頭を抱える時期が長く続きましたが、留学に出てからは、とにかく一人でこもって研究しようとせずに、周りの人を巻き込んでいけるような人になろうと思いました。悩んでるときも決して自分だけが問題なんだ、という風に思い込んではいけないなと感じました。どのみち、まだ一人で研究をろくにマネージできる能力の持ち主ではないので、今のうちに色んな人と研究してノウハウを蓄積していきたいなという風に感じました。

まとめ

2ヶ月半という短い間でしたが、毎日実装&議論というタフな毎日をテンポよく勧めていくことで、とりあえずはフルペーパー提出にこぎつけることが出来ました。これから些細なことで足踏みすることなく、とりあえずラボに来たら研究を進めるために何かしら作業する、を目標に頑張りたいです。最後に、インターン推薦にあたりお世話になった@drinami先生と@narumin先生に感謝いたします。

-Jotaro